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Profile
2012年、サイボウズ株式会社に新卒で入社。プログラマーとしてクラウドサービス「kintone」の実装に携わる。
2014年よりアクセシビリティの啓発・改善活動を開始。「アクセシビリティエキスパート」として、アクセシブルなデザイン・実装の指導・社内ガイドラインの作成等を行っている。
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会1主査。
アクセシビリティに取り組もうと思ったきっかけ
(1)ロービジョンの社員のユーザビリティテストに参加したこと
ロービジョンの社員のユーザビリティテストを見学したことがきっかけです。
私はもともと「kintone」という製品のプログラマーをしていました。自分がプログラムした機能を使っていただいたときに「この文字は私には見えないので勘でクリックしますね...」と言われたのが衝撃的だったのを覚えています。
サイボウズでは、開発した製品を社内の業務でも使っています。このロービジョンの社員の方は、私が作り出した「見えない」ボタンを日々クリックし続けなければなりません。私が不便を課してしまったことに大きな責任を感じました。
2015年から、業務の合間の時間を使って、社内勉強会や小規模な製品改善などの草の根活動を始め、2018年からはアクセシビリティ活動が正式な工数として認められるようになりました。2020年からはアクセシビリティチームが発足し、複数人でアクセシビリティを高める活動ができるようになりました。
(2)共感してくれるメンバーが多かったこと
社内でアクセシビリティの勉強会を開いて、アクセシビリティとサイボウズとの関わりについて、自分の意見を述べた時に、共感を持ってくれるメンバーがいたことも、今まで活動を続ける強い動機になっています。
もともと私は、ロービジョンの方のユーザビリティテストを見てアクセシビリティに取り組みはじめたので、サイボウズにとってアクセシビリティとは、障害者の方のための特別な配慮だと思っていました。
障害者の方のためという考え方が間違っているとは思いません。しかし一方で、サイボウズは「チームワークあふれる社会をつくる」という理想を掲げています。グループウェアの開発を通じて、世界中のさまざまなチームがチームワークを発揮してよりよい社会がつくられることを目的に活動しています。このサイボウズの理想に対してアクセシビリティがどのような関係にあるのか、考えるようになりました。
アクセシビリティ (Accessibility) はアクセス (Access) できる能力 (Ability) を表している言葉です。これは何にアクセスできる能力なのでしょうか。サイボウズにとってアクセシビリティとは、単に「製品」や「サービス」にアクセスするのではなく「チーム」にアクセスできること。つまり、世界中のすべての人が、どんな障害があっても、どんな制約があったとしても、チームに参加・貢献できることだと考えました。
アクセシビリティの社内勉強会やワークショップを開き、なぜサイボウズにとってアクセシビリティが重要なのか伝える中で、プログラマー、デザイナー、ヘルプサイトのライター、広報など、1つの職域にとどまらず、さまざまな人の共感と協力を得ることができるようになりました。今でもとても大切な財産だと思っています。
アクセシビリティに取り組むことで得られるメリット
現在、私はデザイナーとプログラマーの中間のようなポジションで、デザイナーが作成したモックをみながら、アクセシビリティのレビューをしたり、デザインをもとにアクセシブルな実装案を考える業務を行っています。
アクセシビリティのスキルを高めると、デザインのモックを見た時に「誰が」「どんな場面で」「どのように」困るのか、より広く考察できるようになります。身近な人だけでなく、さまざまな障害、さまざまなデバイス、さまざまな環境に想いを馳せて、わたしたちが提供するデザインがどのような人に使えるのか、どのような人に使えないのか、深く考えられるようになります。
また、アクセシビリティに取り組む上で多くの障害者の方に出会い、自分の考え方や固定観念を取り払うことができることも、アクセシビリティに取り組む上での大きな財産になると思います。私は現在、全盲やロービジョンの同僚と一緒に仕事をしていますが、Webへのアクセスの仕方をはじめ、普段の困りごと、生活をする上での工夫、業務の仕方、障害の捉え方など、私の予想が大きく外れることも多いです。自分の凝り固まった考え方が壊され、新たに組み上げられる毎日です。
多様な人のあり方を知ることで、ひとつのデザインを多角的な視点で捉えることができると思います。
アクセシビリティに取り組む時に気をつけていること
まず会社や組織の目的とアクセシビリティの関係を考え、多くの人に共感してもらうことです。関係を説明し共感を得られないと、個人や有志の活動の域を超えられず、そもそもアクセシビリティを高めるための工数が十分にとれなかったり、アクセシビリティ改善を進めたとしてもリリースできなかったりします。サイボウズでは、社内勉強会やワークショップなどの社内啓発活動を通じて、アクセシビリティについて共感を得る機会を継続的に設けています。
また、できるだけ企画やデザインの初期段階から、アクセシビリティのアドバイザーとして参画することも大切にしています。製品全体やデザインのコンセプトとアクセシビリティの関係を開発チーム全体で考えられると良いなと思っています。
アクセシビリティに取り組むときのデザイナーとの協業について
私は現在「サイボウズ Office」という製品のアクセシビリティ改善に取り組んでいます。サイボウズ Officeのプロダクトマネージャーから「みんなに(誰にでも)使える」コンセプトを実現するため、アクセシビリティを高めてほしい」という依頼があり、活動を進めています。
日々、サイボウズ Officeのデザイナーとアクセシビリティチームとで、さまざまな場面で協業しています。
- 視覚障害者の社員やユーザーに対してリサーチを行う
- 要件リストを作成し、優先順位づけを行う
- デザイン改善のモックアップを作成する
- マークアップの改善案を作成する
普段はFigmaやVSCode Live Shareを使いながら、複数人で同時にデザインを考えたりプログラムを書いたりしています。デザイナーとアクセシビリティチームの明確な業務の区分けはありませんが、デザイナーであれば、製品としての統一感を考慮したビジュアルデザイン、アクセシビリティチームであればスクリーンリーダーを意識したマークアップなど、お互いの得意分野を活かして、協力・議論し合いながら作業することが多いです。
アクセシビリティのリリース情報はサイボウズアクセシビリティポータルで毎月公開しています。
プロジェクトでアクセシビリティに取り組む際にデザイナーができること
デザイナーの成果物によって、アクセシビリティを確保するために全体的なコストが決まると思っています。
デザイナーがアクセシビリティを考慮していないと、実装に大きな負担がかかる場合があります。例えばキーボード操作を全く考慮しないでデザインを作った場合、複雑なキー操作の実装やフォーカス管理が必要になったりします。
また、デザインによっては、実装でアクセシビリティを確保することがそもそも難しい場合があります。実装の終盤まで進めば進むほど、デザインを変更することが難しくなるため、アクセシビリティの負債がそのまま残り続ける可能性が高くなります。
逆に、デザイナーがアクセシビリティの高い成果物を提供できれば、その後の実装でも、現実的なコストでアクセシビリティを確保できることが多いです。
アクセシビリティの高いデザインを学ぶにはたくさんの方法がありますが、私のおすすめは、みなさんがデザインしたWebサイトやWebサービスを、実際に障害者の方に使ってもらうことです。私がそうだったように、みなさんにとっても、アクセシビリティに取り組む強い動機になると思います。
最後に一言
アクセシビリティが高まることで、今まで届かなかったより多くのユーザに、わたしたちが生み出す価値を提供できるようになります。それは単に製品やサービスを使えるようになるということだけではなく、時にはユーザの生活を一変させる力を持つこともあります。
サイボウズでは、より多くの方がチームにアクセス(参加・貢献)できるよう、引き続きアクセシビリティの取り組みを進めていきます。一緒にサイボウズでアクセシビリティに取り組みたいという方も募集しています。面談等もできますので、興味のある方は私(@sukoyakarizumu)まで、お気軽にご相談ください。
一緒にアクセシビリティを高めてきましょう!
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